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対位法ってなに?

楽典や和声に比べると耳にする機会は少ないのですが、和声法よりも長い歴史を持つ「対位法」というエクリチュールがあります。原語はドイツ語の「 Kontrapunkt(コントラプンクト)」で、英語には「counterpoint」と訳されている通り「カウンターメロディ=対旋律」を作るための技法です。

 

対位法について解説する前に、次の3つの音楽構造について確認しておきたいと思います。

[1] モノフォニー ⇒ 単旋律、無伴奏
[2] ポリフォニー ⇒ 主旋律、伴奏といった区別が無い(どの声部も対等な旋律)
[3] ホモフォニー ⇒ 主旋律と伴奏が明確に区別される

対位法はポリフォニーのための技法ですが、まずモノフォニーについてお話しましょう。
音楽の起源をたどると、独唱や独奏から始まり徐々に合唱や合奏のような「複数人で合わせる」スタイルに移行していくわけですが、後者も初期は全員で同じメロディーを演奏するような単純なものでした。ハモったり各々が別のパートを担当したりするようなことは、まだできなかったんですね。このような原始的な音楽を「モノフォニー」といいます。私たちの身近な例でいうと、バースデーソングをその場の雰囲気で皆で歌い出したり、校歌や国家を斉唱する(いずれも伴奏無しで)ようなイメージです。

 

そんな斉唱スタイルから少し時代が進むと、今度は輪唱スタイルが流行するようになってきました。輪唱というのは「カエルの歌」や「カッコウ」で知られるように、少しずつタイミングをずらして同じ旋律を歌うことです。ずれたところは別の音が鳴るため、結果的に和音が発生している状態になります。これをもう少し積極的に利用して、全く異なる複数の旋律を同時に演奏したときにも輪唱と同じような効果が得られるように作られた音楽が「ポリフォニー」です。

譜例はオーボエとファゴットのデュエットですが(機械なので音色は許してください・・)どちらが主旋律でどちらが対旋律か、わかりますか?このように、どちらも対等な立場でひとつの音楽を組み立てるのが対位法的なアプローチというわけです。

 

それから更に時が下ると、いよいよ現代に至るまで長く続く合奏スタイルが主流になります。明確な主旋律があって、それを和音で支えるように伴奏が付けられる「ホモフォニー」と呼ばれる音楽です。J-POPなどの歌モノはヴォーカルが主旋律、バンドが伴奏という最もわかりやすい形ですし、ピアノ曲でも右手が主旋律で左手が伴奏という標準的なポジションがあります。オーケストラの交響曲なども構造的には同様で、メロディーを受け持つ楽器に移り変わりはあっても、曲全体としてみれば常に主旋律と伴奏が存在しています。

 

ホモフォニーの音楽にどっぷり浸かって暮らしている私たちにとって、ポリフォニーは馴染みが薄くやや難解なものです。主メロが同時にいくつも鳴っていれば、どこを聴いたらいいか耳の方も追い付かなくなってしまいますよね。しかし、洗練されたポリフォニーは、ホモフォニーでは表現できない特別な魅力を持っています。それに、完全なポリフォニーでなくても、カウンターメロディーのようにホモフォニーの中にポリフォニックな要素を入れ込むことで楽曲の幅を広げることもできるんです。なんとなく作られたメロディーを複数組み合わせてもゴチャゴチャしてしまう、だからポリフォニーのメロディーは綿密に設計されている必要があり、対位法を学ぶことはその設計方法を学ぶということなんですね。

 

ちなみに対位法には、先ほどのオーボエ&ファゴット譜例のような単純対位法から、転回や模倣を含む複雑な対位法まで、いくつかの段階があります。まずは2声から始め、3声、4声と増えていくのですが、それぞれの声部数について第一類「全音符」、第二類「二分音符」、第三類「四分音符」、第四類「移勢」、第五類「華麗」という5種類の課題を実施していきます。「移勢」はシンコペーションのことで、「華麗」は第一〜四類の技法を組み合わせたものです。5声からは第一類「全音符」と第五類「華麗」だけになり、最終的に8声にまで増えていきます。対位法が目指すところはカノンやフーガといった高度な楽式ですが、楽式論については別の記事で紹介します。

2018/03/01:  対位法
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